集束超音波治療 (FUS)
正確には,MRIガイド下集束超音波治療(MRg-FUS)といいます。
メスを使わず、頭蓋骨に穴を開けずに、MRIで場所を確認しながら脳の凝固手術ができる画期的な治療法です。
本態性振戦とパーキンソン病のみに医療保険が適用されます。
脳内に電極を入れたり直接操作することがないので、脳内出血のリスクがほとんどないのが最大の利点です。「症状は治したいけども脳の手術が怖くて踏み切れない」という方には一考すべき治療法です。
当院では実施できません。FUSによる治療が必要な患者さんは、FUS導入施設(九州では下記の2施設)へご紹介させていただきます。
医療法人光竹会 福岡脳神経外科病院(福岡市)
医療法人慈風会 厚地リハビリテーション病院(鹿児島市)
治療の手順
① 部位の確認(〜42℃)
弱いエネルギーの超音波を照射しながら、MRIで脳内の温度分布を観察します。温度上昇点が標的部位に正確に生じず標的から外れていたら、0.1mm単位で細かい修正を加えます。
② 効果の確認(〜48℃)
症状を抑える程度の強さで超音波を照射し、温度上昇の広がりを確認し、症状が改善されるか,有害事象が生じないかどうかの最終チェックを行います。
③ 治療照射(〜58℃)
さらに強いエネルギーで超音波を照射し、標的部位の組織を凝固破壊して治療完成です。
もし患者さんがその間に何らかの違和感・異状を覚えた場合、手もとのストップボタンで随時治療を中断できます。
集束超音波治療は脳内に電極を挿入する必要がないため、脳内出血のリスクはほとんどありませんが、100%安全な治療でもありません。 0.1mm単位で調節しても,超音波特有の不確実さもあります。
集束超音波治療では、さまざまな方向から一点に集められた超音波のエネルギーが脳組織を振動させ熱を発生させます。言い換えると、脳組織そのものがエネルギーを熱に変換する場所になっています。
脳は硬いところ柔らかいところが混在する不均一な組織ですので、凝固は熱の発生しやすい方向に広がり不整形になってしまうことがあります。特に熱を発生させたくない場所へ想定外に広がると、麻痺や感覚障害などの後遺症障害に至る危険性もあります。
上記①〜③の手順を踏んでも、標的部位から望まぬ方向に凝固が広がってしまうことがあります。このような想定外の凝固が生じないように細心の注意を払って治療を行なっていますが、100%予防できるものではありません。
全員に適応できるわけではない
もう一つ重要な点があります。
超音波を頭蓋内でうまく集めて、脳内の治療部位を温められるかどうかは、骨密度比(SDR)にかかっています。
SDRが十分高いと、ピンポイントに超音波を集め、温度を上げることができますが、SDRが低いと、いくら超音波を当てても温度を上げることができず、症状を改善できないまま中止せざるをえません。
SDRは頭部のCT検査で計算できます。本態性振戦では0.35以上、パーキンソン病では0.45以上が必要です。
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