股関節の疾患「変形性股関節症について(3) ~手術療法~」
変形性股関節症の手術療法について
手術療法にもいろいろな手法があり、それぞれの手術の特徴を十分に把握して方法を選択する必要があります。
人工関節は、除痛と術後の可動域の確保に優れ早期に歩行が開始できる手術方法ですが、術後の脱臼や感染に弱いなどの問題があります。
さらに長期的には、人工関節の摩耗やゆるみの問題も指摘されています。
そこで若壮年では、「関節を残す(温存)」術式が第一選択肢となります。
関節を温存する術式としては、「外反骨切り術」「寛骨臼移動」「棚形成術」「キアリー骨盤骨切り術」「内反骨切り術」「筋解離術」などがあります。
骨切り術は、関節をより安定な形に変えて関節を再生させる手術です。
また、重労働が必要な若い男性では、「関節固定術」を検討することもあります。
当院では多種多様な股関節の状態に対応すべく、様々な術式を駆使してより安全で体に優しい治療法を行うようにしております。
西尾式弯曲内反骨切り術(前股関節症・初期・進行期)
内反骨切り術は、大腿骨頭を内反させて関節適合性を向上させ、かつ関節にかかる負荷を低下させることを目的とした手術です。
この術式は、1969年に九州大学で故杉岡の前教授・西尾先生が開発した手術であり、切骨を転子間部において弯曲させて行うために従来法と比べ下肢の短縮が少なく、接触面積も広いため骨癒合にも優れた方法です。
病期が進んでいない臼蓋形成不全股に対して適応されますが、このような股関節に対しては寛骨臼移動術の適応も検討します。
棚形成術
臼蓋形成不全股に対して腸骨から採取した骨で軒をつくる手術です。
軒をつくる手術としては、「寛骨臼移動術」や「キアリー骨盤骨切り術」などがありますが、この手法はより低侵襲で行えるのが利点です。
「外反骨切り術」に併用して行われることがあります。
※詳しくは「大腿骨頭壊死について(3) ~治療~」のページへ
キアリー骨盤骨切り術
キアリーが1955年に発表した手術方法で、股関節の関節包直上部で骨盤を直線上に切骨して股関節を含む遠位骨片を内側に移動させる手術です。
股関節の内方化を達成すると共に(内方化により股関節への関節合力が低下する)、関節包を介した骨頭被覆が増して股関節が安定化します。
初期から末期まで、幅広い状態の股関節に適応があると言われています。
外反骨切り術と併用されることがあります。
術前 | 術後 | 術後4年 |
片麻痺がある患者さんで、 人工股関節全置換術では 術後の脱臼の危険性が 高いと判断された。 右股関節の軟骨は消失しており 強い痛みの訴えがあった。 |
キアリー骨盤骨切り術を施行。 2本の鋼線で切骨部を止めている。 |
骨頭被覆は良好となり、 関節が再生されている。 |
人工股関節全置換術
※詳しくは「大腿骨頭壊死について(3) ~治療~」のページへ
筋解離術
何らかの理由で、骨切り術や人工股関節置換術の適応とならない場合、臼形態がよく、比較的安定型の変形性股関節症のケースで検討されます。
疼痛に対する反応性の筋緊張が関節内圧を上昇させ、軟骨の変性を招く悪循環を断つのが目的です。
筋解離術は、この反応性に緊張した筋肉が骨に付着する部分を「切離」する術式で、筋肉の緊張が弱まり症状が改善します。
緊張した筋肉の切り方によっていくつか方法があります。
体に対する侵襲が少なく除痛効果を得ることができると言われています。
初診時 | 3年後 | 筋解離術後5年 |
関節裂隙の狭少化 骨嚢胞変化進行 |
関節裂隙の開大 骨嚢胞の消失 歩行状態も改善している |
関節固定術
若年者で、活動性が高いために人工股関節の適応とならず(耐用年数の問題)、かつ各種骨切り術の適応にもならない症例に対して検討されます。
特に若い男性で肉体労働をする患者さんに用いられます。
生活動作に多少の不便さはあるものの、痛みがなくなるために生活や労働がしやすくなると言われています。
長期的には人工股関節全置換術への移行も可能です。
隣接する荷重関節(対側の股関節、膝関節、腰)に負担がかかり、痛みが生じることがあります。
※レントゲン写真の患者さんは、術前写真では小児期の化膿性股関節炎のため左大腿骨頭が消失しています。
痛みが強くなり、消炎鎮痛剤などによる保存的治療が効果無いため関節固定術を行いました。
現在疼痛なく生活しておられます。
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