健康コラム

膝関節前十字靱帯(ACL)の再建術(3)~Q&A~

膝関節前十字靱帯(ACL)再建術 Q&A

手術までの手順はどうなるのですか?

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外来で担当医と相談し、手術を受けることが決まったら入院の申し込み手続きをします。
手術日が決まると、術前検査(採血、検尿、胸部レントゲン撮影、心電図など)を受けて頂きます。
実際の入院は手術予定日の直前(前日か、まれに前々日)になります。

 

入院期間は何日でしょうか?

入院期間は約2~4週間です。
手術の日から2~3週間は、車椅子や松葉杖を使って手術した足に体重をかけずに生活していただきます。
その後リハビリを行い、経過を見つつリハビリ用ブレース(プロテクターのようなサポーター)をつけて、歩行練習をしますが、手術所見により前後します。
その後の経過により退院日程を決めます。

麻酔は全身麻酔ですか、下半身麻酔ですか?

手術は原則的に全身麻酔で行います。IMG_5454
麻酔については、麻酔の方法から管理まで全て麻酔科に一任します。

 

 

 

手術後のリハビリはどう進めるのでしょうか?

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手術後約8~9カ月でスポーツに復帰することを目標にリハビリをすすめて行きます。
経過の目安は(表1)のようなものです。
ただし(表1)に示したのはあくまでも目標です。
筋力、可動域、腫れ、痛みなどの条件をクリアしないと次に進めないので、経過は個人個人で違ってきます。

 

学校や仕事にはいつから戻れますか?

目標どおりにリハビリが進めば、術後2〜4週間で戻れます(松葉杖使用しながらの場合もあります)。
表1)のように、日常生活への完全復帰は術後1カ月が目標になります。

スポーツへの復帰はいつ頃からできますか?

競技種目や選手の能力によって変わりますが、部分的な復帰は6カ月、完全復帰は9カ月くらいを目標にアスレチックリハビリテーション(スポーツ復帰を目的としたリハビリ)を進めて行きます(表1)。
手術で再建した靱帯は、手術終了時点では正常の膝関節前十字靱帯(ACL)よりも強く作ってありますが、移植された腱は、術後経過中に少し弱くなってから再び強くなるという生物学的な成熟過程を経て完成されて行きます。
一時的に弱くなる術後2〜4カ月の時期には、再建靱帯を保護しながら安全にトレーニングを進めないとゆるんだり切れたりする事故が起きます。
ただがむしゃらに早くから動かせば早く復帰できるというものではありませんので、担当の医師や理学療法士の指示に合わせて、経過に応じたリハビリテーションを行うよう心がけて下さい。

表1.膝関節前十字靱帯(ACL)再建術後のアスレチックリハビリテーションの目安

経過の目安 目標 リハビリの内容(代表的なもののみ)
最初の1カ月 A 日常生活への完全復帰 可動域の改善、歩行練習、大腿四頭筋訓練など
2-4カ月 B 4カ月以降のトレーニングを予定どおり始めるための基礎訓練 筋力強化各種、バランス訓練、ウォーキング、スケーティング、水中歩行、水泳、階段昇降など
4カ月以降 C スポーツ復帰を目的としたトレーニングの開始
術前健側の筋力以上で、かつ健側比80%以上
ランニング、なわとびジャンプ、ステップ動作、30-50%ダッシュ(平地、階段など)
6カ月以降 D 競技への復帰を目的にしたトレーニングの開始 コート、グランドで別メニュー練習開始
80-100%ダッシュ、慎重なストップ動作練習など
8カ月以降 E 別メニュー練習の解除 競技復帰

使った金具は抜くのでしょうか?

金具はチタン合金製で、一生体内に入れておいても問題のないものです。
原則的に金具の抜去手術はしていませんが、金具を入れた部分が痛む場合や、金属アレルギーが出た場合などには、術後1年以上経過すれば抜去可能です。
ただし抜去手術にも短期間の入院が必要です。

手術の合併症にはどんなものがありますか?

この手術の主な合併症には次のようなものがあります。

●術後の疼痛
足の痛み術後一時的な痛み、腫れ、しびれなどが出ますが、いずれも1週間以内に治まってきます。
手術当日など、痛みがつらい場合にはそのつど対応致します。

●術後知覚障害の遺残
靱帯を作るために取る骨や腱の近くには細い神経が通っているので、手術によってこの神経が切れると、術後にすねの外側や傷の周りに感じない部分が出来ることがあります。
よく触ってみると分かる程度のものなので、徐々に慣れてもらうしかありません。

●腱採取部の影響
膝を曲げる働きをする主な5つの筋肉(大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋、薄筋、腓腹筋)のうちの1つないし2つの筋肉(半腱様筋、薄筋)からその腱を採取して再建靱帯を作ります。
採取した腱は1年くらい経つと再生すると言われていますが、股関節を伸ばしたままで膝を曲げる筋力が少し低下します。

●深部静脈血栓症・肺梗塞
この手術に限った合併症ではありませんが、お腹や下肢の手術をすると、下半身を動かさずに寝ていることがきっかけになって下肢の静脈の中の血液が固まり、血栓という血の固まりが出来ることがあります(深部静脈血栓症といいます)。
普通この血栓は自然に無くなりますが、まれにリハビリなどの動作中に血液の流れにのって肺に運ばれ、そこでつまって突然死する事があります(肺梗塞といいます)。
膝関節前十字靱帯(ACL)再建術で肺梗塞を起こすことは極めてまれですが、何より予防が大切なので、手術の翌日から足を動かしたり、膝の曲げ伸ばしをしたりして、じっと動かないでいる時間をなるべく短くするよう指導致します(合併症予防のための早期リハビリテーション)。
万一、肺梗塞が生じた場合には、酸素を吸入したり、血液を固まりにくくする薬を投与したりして対応します。

●細菌感染
手術した傷に細菌が感染すると、傷が化膿し,関節に膿がたまることがあります。
膝関節前十字靱帯(ACL)再建術は内視鏡を使った小侵襲手術で、手術中も関節内を洗浄しながら行うため、感染を生じるリスクは低く1%以下です。
ただし一度感染が生じると治療が大変なので、予防のために抗生物質を使います。

●術後出血
手術後の出血はありますが輸血を必要とするようなものではありません。
出血した血液が関節内にたまらないようにドレーンという細い管を関節内に数日間留置して排出します。

●その他
予測できない合併症が起こることもあり得ますが、その都度、適切に対応致します。

手術をすれば一生もちますか?

sugioka_064_1手術は、あくまでも靱帯の代用物を作るもので、正常な靱帯を再生するものではありません。
手術をして元通りのスポーツレベルに復帰しても、またけがをして膝関節前十字靱帯(ACL)を切ることもあります。
膝の使い方によってはゆるむこともあります。
また、手術の時点ですでに生じていた関節軟骨や半月板などの変化は不可逆的なもので、完全に元には戻せませんし年齢とともに少しずつ進行するのが普通です。
しかしこれらの二次的な変化は、靱帯を再建することで最小限にとどめることが出来ます。

 

筋肉を鍛えれば手術せずにすみますか?

靱帯と筋肉は役割が違うので、筋肉を鍛えただけでは「膝くずれ」を100%止めることは出来ません。
ただし、ケガをしたために落ちてしまった筋力を回復するためのトレーニングはとても大切です。
膝関節前十字靱帯(ACL)が正常でも、筋力が落ちただけで「膝くずれ」を起こす人もいるからです。
筋力強化は極めて重要ですが、筋力だけで靱帯の機能を完全に補うことは出来ないということになります。

手術はどうしてもしなくてはいけないのでしょうか?

51e10d92ef29433889cab220405f54f1_s膝関節前十字靱帯(ACL)損傷の患者さんの中で、手術がどうしても必要なのは、スポーツへの復帰を希望する方です。
スポーツへ復帰する必要のない方は、一度日常生活に復帰して下さい。

膝くずれや不安感などのために自分の希望する生活の質(QOL:Quality of Life)を維持できない場合に、その時点であらためて手術をするかどうかについて相談すれば大丈夫です。

 

 

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